博士進学について
このコーナーでは、博士課程への進学に際して参考になるような情報を紹介します。修士課程に入学した皆さんのなかには、博士課程に進学するか迷っている方も少なくないでしょう。今後の進路の参考にご活用ください。
基本データ
令和3年5月の東大の博士課程在学者は、合計 6007名となっています。下記の表を見ると、修士から博士へ進学する人の割合は、研究科によってかなり異なることがわかります。
2020年度に修士課程を修了した東大生の東大博士課程への進学率は27.3% (860 / 3155名) です。この進学率は2017年度以降増加傾向にあり、2017年度23.9%、2018年度26.1%、2019年度26.9%となっています。
博士課程に進学する割合が高い研究科では、修士課程で卒業する場合の就職に関する情報や、卒業生のネットワークが利用しづらいことが考えられます。自分から早めに情報収集に努め、行動していくようにしましょう(就活については就活のススメを参照)。
2020年度修士修了者の進学率
修士修了者 | 進学者 | 進学率 | |
---|---|---|---|
人文社会系 | 114 | 63 | 55.3% |
教育学 | 70 | 24 | 34.3% |
法学政治学 | 25 | 12 | 48.0% |
経済学 | 100 | 21 | 21.0% |
総合文化 | 229 | 83 | 36.2% |
理学系 | 359 | 191 | 53.2% |
工学系 | 1025 | 167 | 16.3% |
農学生命科学 | 278 | 53 | 19.1% |
医学系 | 53 | 24 | 45.3% |
薬学系 | 83 | 37 | 44.6% |
数理科学 | 35 | 23 | 65.7% |
新領域創成科学 | 421 | 97 | 23.0% |
情報理工学系 | 264 | 47 | 17.8% |
学際情報 | 99 | 18 | 18.2% |
『東京大学の概要』より
修了要件、修了までにかかる年数
博士課程を修了するためには、3年以上在籍して所定の単位を取得するとともに博士論文を執筆することが必要です。これはすべての研究科で義務付けられています。
博士課程修了までにかかる年数は研究科によって大きく異なっています。平成22~26年度における標準修業年限内修了率(3年で博論を執筆して修了した割合)は、次の表のようになっています。
人文社会 | 教育系 | 法学政治学 | 経済学 |
---|---|---|---|
10.4% | 15.1% | 13.6% | 10.4% |
理学系 | 工学系 | 農学 | 薬学系 |
---|---|---|---|
53.7% | 37.6% | 59.8% | 80.6% |
研究面での修士課程との違い
修士課程と博士課程では研究や普段の生活にどのような違いがあるのでしょうか。東京大学が行った2019年の「学生生活実態調査」を見てみましょう。
- 1日平均の研究時間は、修士6.6時間、博士7.1時間となっており、博士のほうが研究に多くの時間をかけていることが窺えます。
- 取得すべき単位が少なくなり、コースワークよりも自分の研究時間が増えています。学会発表を行う機会も多くなるでしょう。
- 研究にかかる経費も増加しています。書籍費・調査費・学会参加費など、すべての項目の費用が修士よりも博士で多くなっています。
また、研究以外の手伝いに時間を使う場合もあります。博士課程になると、後輩の指導や学会の事務作業などを任されるかもしれません。また、研究室によっては博士課程になると研究計画を一任されることもあり、自分でスケジュールを管理する能力が求められます。博論を見据えた計画的な研究が必要です。
修了後の進路について
理系では専門分野にもよりますが、企業の研究職に就く人が一定数います。一方、文系では基本的には大学教員か、公的な研究機関の職を目指すことになります。博士課程修了後の展望は必ずしも明るくありません。博士課程の院生は増えている一方で、少子化によって学部生の数がそれほど増加してゆかないため、大学教員の職はあまり増える見込みはありません。
しかし、自分の興味のあることを仕事にできるという魅力は、やはりアカデミックな職業ならではと言えるでしょう。こうした功罪を見極めて、進学するかどうかを検討してみてください。
博士課程進学を考える上でのブックガイド
マックス・ウェーバー『職業としての学問』(岩波文庫、1952年)
学問論の古典です。社会科学の巨人ウェーバーが、職業として学問を志す学生の持つべき心構えや、学問には何がなし得るかを説いており、現代の私たちにとっても示唆に富んでいます。ページ数は少ないので、短時間で読めます。
小森陽一(監修)『研究する意味』(東京図書、2003年)
著名な研究者たちが、主に人文・社会科学系の院生に向けて研究について語っています。著者たちの若い頃のエピソードが随所に散りばめられており、勇気づけられることも多いでしょう。個人的には、藤原帰一先生の「10年間闘う根気があるか」というメッセージに惹きつけられました。
水月昭道『高学歴ワーキングプア』(光文社、2007年)
90年代の大学院重点化によって定員が増えた大学院が、就職難の学生たちを吸い上げ、多数の「フリーター」を生み出してしまっているという主張をし、有名になった本です。一部の事例を強調しすぎている感は否めませんが、現在の大学院の抱える問題に鋭く切り込んでいます。
榎木英介『博士漂流時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2010年)
理工系を中心としたポスドクの就職問題を扱いながら、職にあぶれつつある博士号取得者の今後を考えさせてくれる一冊です、博士進学者が向き合う可能性があるかなりシビアな現状を描いています。進学を考えている人も修士のうちに目を通しておくとよいかもしれません。