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出版社で働く東大出身者へのインタビュー Vol.5 勁草書房 K.K.さん
公開日:2026年9月28日

■名前
K. K.
■東大在籍時の学部、専攻
文学部(国文学専修課程)2019年度卒業
■現在勤めている出版社
株式会社勁草書房
Webサイト: https://www.keisoshobo.co.jp/
■大学時代の過ごし方
運動会洋弓部(アーチェリー部)に所属していたので、大学生活の思い出はほとんどが部活関係です。アーチェリーは大学からの初心者ですが、自分の射が点数としてストレートに反映されるところが性に合っていて楽しく打ち込んでいました。それもあって、学部の方は勉強不足・リサーチ不足・センス不足でお世辞にもいい学生とは言えなかったと思います。
■大学時代における本や生協書籍部との関わり方
国文学専攻としてあるまじきことですが、学生時代にはそれほど本を読んでいませんでした。というのも、もともと読むときに限界まで自分の中で咀嚼しようとする癖があり、読書スピードがきわめて遅く、新書1冊を読み終えるのに1か月以上かかることもざらにありました。生協書籍部では漫画を買ったことの方が多いかもしれません。
■出版業界を選んだきっかけ
そんな不真面目学生だった私ですが、就職活動をするとなると不思議と出版一本に絞られていきました。自分の生業を何と定めるかは、すなわち自分がこの社会の中で何に価値を認めるかを表明することなのだと思います。私は知を広げ繋いでいく出版業界にそれを見出したのでしょう……というのは流石に気取りすぎですが、あながち出鱈目というわけでもない気がしています。
■どんな仕事をしているか
編集者として企画・編集に携わっています。主には哲学・倫理学分野で、企画の立ち上げから原稿の整理、紙面のレイアウト、装幀の手配、刊行後の献本まで伴走します。
■勤めている出版社の特徴や魅力
勁草書房は早い時期から日本に分析哲学を紹介してきた歴史があります。それらの書籍の中には、今や古典として出版から数十年にわたって読まれ続け、増刷を重ねているものが数多くあります。もちろん全ての本がそうなれるわけではありませんし、自分自身これから数十年を堪えられるような本を作らねばならないというプレッシャーもありますが、先人の積み重ねてきた知を受け継いでいく現場に携わることができることは魅力の一つだと思っています。
■出版業界にいて感じること
出版には、情報を媒介・伝達するという「メディア」の側面と、本という商品を作る「メーカー」の両側面があります。本はその性質――構造化されたテクストの集積、容易に貸し借りができる、比較的耐久性が高い、等々――によってメディアの中で一定の役割を果たしてきました。しかし今は電子書籍もすっかり普及し、もう本は電子でしか買わないという人も少なくないでしょう。インクと紙の集合物という物理的条件が揺らぐ今、メディアの中で出版が担う役割が改めて問われているように感じています。
■仕事のやりがいや楽しさ
本は著者あってのものですから、書かれた内容は著者のものです。しかし本にはそれ以外にも様々な要素からなっています。例えば、1ページに何行・何文字を収めるか。見出しの文字はどれくらいの大きさにするか。注は章末にまとめるのか巻末にまとめるのか……。もちろんこれらは著者ともやり取りをしながら決定していきますが、編集者の裁量によるところが大きい部分でもあります。その本にとって最も望ましい形を考え、整えていく作業こそ、編集者の大きな役割の一つだと思います。
■自社の推薦商品とその理由
トマス・ネーゲル著/永井均訳『コウモリであるとはどのようなことか』(1989年、新装版2023年)
アメリカを代表する分析哲学者の一人、トマス・ネーゲルの論文集です。邦題になっている論文は、心の哲学における古典として今も大きな影響力を持っています。それは1989年に出版された本書が30年以上を経た2023年に新装版として再刊されていることにも表れているでしょう。本書は原題Mortal Questionsの表す通り、死・人生の意味・戦争・平等など多岐にわたる主題を取り上げた論文が収められており、関心に応じて「つまみ食い」的に読むことができるという意味でもおすすめです。
■東大生へのメッセージ
大学生は学ぶことにおいて――学問という意味でも、そうでない意味でも――非常に恵まれた時期です。どんな経験も学びの糧になりますが、それゆえにかえって何を拠り所とすべきなのか分からなくなることもあるでしょう。その答えは自分自身の中に、あるいは未来の中にしかないのですが、ひょっとすると先人の書き残したものの中にヒントが転がっているかもしれません。眠られぬ夜の友に、本を1冊買って帰ってみてはいかがでしょうか。
<了>
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