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お知らせ

全体 出版社で働く東大出身者へのインタビュー Vol.1 ジブンジンブン 原田央さん

公開日:2025年12月22日

■名前
原田央(はらだあきら)

■ 東大在籍時の学部・専攻
学部:工学部社会基盤学科
大学院:工学系研究科社会基盤学専攻

■ 東大の最終在籍年度
2018年学部卒
2020年大学院修了

■ 現在勤めている出版社
株式会社ジブンジンブン
Webサイト:https://jibunjinbun.com/


■ 大学時代の過ごし方
理科一類に入学後、工学部社会基盤学科に進学しました。学部2年後期からは本郷キャンパスへ移りました が、研究室が柏・本郷・駒場の3キャンパスにまたがっていたため、それぞれに2年程度在籍するという、少し珍しいキャンパスライフを送りました。
課外活動としては、駒場時代に東大生協の学生委員会や、駒場祭の委員会に所属し、キャンパスの北側(学生会館周辺)で過ごす時間が長かったです。学業面では、当初は典型的な学生の一面もありましたが、沖大幹先生の「少人数セミナー」を受講したことをきっかけに研究の面白さに触れ、研究室での活動にも真剣に取り組むようになりました。また、東大の支援プログラムなどを利用して、毎年海外へ行っていたのも良い思い出です。

■ 大学時代における本や生協書籍部との関わり方
<読書について>
入学当初はあまり本を読んでいませんでしたが、学科が決まった2年生の冬頃、「今後やっていくには本を読まなければ」と思い立ち、図書館で毎日5冊借りては生協学生委員会の部室で読み耽るという生活をしていまし た。本格的に読み始めたのは、大学院で自身の人文系活動を始めてからです。
<生協書籍部について>
生協の学生委員や理事を務めていたため、経営的な視点で書籍部を見ていました。当時「書籍の利益率は低い」と聞いていましたが、いざ自分が出版する側(作る側)になってみると、その利益率の厳しさと、組合員割引の凄さを改めて実感しています。

■ 出版業界を選んだきっかけ
私は既存の出版社に入社したのではなく、自分で出版社を立ち上げました。
もともと前職で出版流通に関わるシステム開発や広告代理業に携わっており、業界への理解がありました。また、大学院時代に友人たちと人文知のアウトリーチ活動を行う団体を立ち上げており、コロナ禍で活動が途切れそうになった際、「自分たちの活動を『書籍』というしっかりとした形で世に残したい」と考えたことが大きなきっかけです。大手出版社に企画を持ち込むのではなく、自分たちの手で、自分たちの名前で世に問いたいという思いから、起業を選択しました。

■ 具体的にどんな仕事をしているか
「編集者」の役割として言われる「人を集める」「場を作る」「読者を呼び込む」のすべてを行っています。
具体的には、企画立案、執筆者の選定と依頼、編集実務はもちろん、マーケティング、流通の手配、入稿作業、 経理、そして「本の産直市」のようなイベントでの直接販売まで、本に関わるあらゆる業務をジブンジンブンのメンバーで分担してこなしていま す。装丁や校正などの専門的な部分はプロに依頼しますが、ディレクションはジブンジンブンにて行います。

■ 勤めている出版社の特徴や魅力
<特徴>
「ひとり出版社」であること、そして「人文書」を扱っていることが特徴です。ただし、狭義の学術的な人文書だけでなく、人文知的な考え方を日常や社会に適用していくような、広い意味での人文書を目指しています。
<魅力>
自分たちの裁量で、作りたい本を自由に企画・出版できる点です。社内の企画会議を通す必要も、厳しい売上ノルマ に縛られることもないため、自分たちが「これは世の中に必要だ」「面白い」と信じた企画を、純度高く形にすることが できます。また、この仕事を通じて、研究者や芸術家など、普通に生活していたら出会えないような方々と深く関われることも大きな魅力です。

■ 仕事のやりがい、楽しさ
自分たちが読みたい本、必要だと思う本を自分たちで作れることです。SNSなどで意見を発信するのとは異なり、金銭的なリスクを負って「書籍」というプロダクトとして世に問うことには、独特の緊張感と面白さがあります。
読者から直接反応をもらえたり、本を通じて新しい人間関係が広がったりすることは非常に楽しいです。大手出版社のような安定や流通網はありませんが、すべての責任を自分で負う分、納得のいく本作りができる点にやりがいを感じています。

■ 自社の推薦商品とその理由
商品名:『ジブンの世界はジンブンでできている』
理由:まだ1冊目の刊行ですが、この本には私が伝えたい「人文知の面白さ」が詰まっています。分野の異なる研究者による鼎談形式で、特定のフォーマットの中でこそ見えてくる「人の面白さ」や「知の交流」を表現できたと自負しています。

■ 出版業界にいて感じること、わかったこと
日本の出版流通システム(取次・委託制度)が限界を迎えていることを肌で感じます。書籍の価格が原材料費の高騰に対して安すぎることや、雑誌の収益で書籍を支える構造が崩れている現状は深刻です。(※)
一方で、世の中には本当に多様な本があり、それぞれの本が誰かに届くために作られているという熱量も感じます。ただ、社会全体として「本を読む」という行為自体が、時間的・精神的な余裕のある一部の人だけの特権になりつつあるのではないか、という危機感も抱いています。

※編注:取次とは、雑誌・書籍を専門に扱う卸問屋のこと。委託制度とは、取次から書店に在庫を預け、一定期間経ったら売れ残りを返品することができる販売方法のこと。
雑誌は定期的に刊行され安定した売上があるため、雑誌の配送を基本としてそこに書籍の荷物を便乗させるという流通構造だった。しかし昨今は雑誌の売上と流通量が大きく減っているため、これまでの考え方では成り立たなくなっている。

■ 最近の出版業界のトレンド
特定のジャンル(AI本など)の流行はありますが、それよりも「流通の形」の変化が大きなトレンドだと感じていま す。従来の取次ルートだけでなく、出版社と書店が直接取引をする「直取引」や、イベントでの直販など、新しい本の届け方を模索する動きが活発化しています。(※)

※編注:出版社が学会や展示会といったイベントに出店する際に、取次や書店を介さずに読者へ直接本を販売することがある。そういった販売方式を直販という。

■ 出版業界から今の社会をどう見ているか
<情報の取り方の変化>
人々が情報を得る手段が、本やWebメディアから、生成AIやショート動画へと急速に移行しています。「読む」人口が減り、可処分時間の奪い合いが激化していると感じます。
<社会の分断と「本」の役割>
SNS上などで、物事を「0か1か」「白か黒か」で極端に判断する傾向が強まっているように思います。しかし、現実の世界はもっと複雑で、割り切れないものです。本(特に人文書)は、そうした「0.8」や「√2」のような、割り切れ ない曖昧さや多様な価値観を受け止める土台を提供できるはずです。オンライン上の極端な言説から離れ、オフラインで、あるいは本を通じて、深く思考する場の重要性が増していると考えています。

■ 東大生に読んでほしい本
まずは、手前味噌ですが自社の本を読んでほしいです(笑)。理系・文系問わず、人文知的な考え方は人生を豊かにしてくれると確信しています。
それ以外では、「自分の好きな本」を読んでください。ビジネス書でもライトノベルでも絵本でも、そこに貴賤はありません。「なぜ著者はこの本を書いたのか」「誰に向けて書かれているのか」を考えながら読むと、どんな本からでも学びはあります。

■ 東大生へのメッセージ
大学時代は「一番楽に、自由に学べる貴重な時間」です。単位を取るためだけでなく、興味の赴くままに授業を受けたり、ゼミに参加したりして、学ぶこと自体を楽しんでください。就職活動などは優秀な皆さんなら何とかなると思うので、大学というリソースを使い倒してほしいと思います。
「批評家にならず、作る側になろう」、これは私の恩師の言葉です。
東大生は頭が良いので、物事を分析して批評することが得意だと思います。しかし、口や頭を動かすだけでなく、「手」を動かして、実際に世の中に何かを残す人になってほしいです。
それは本を作ることに限らず、起業でも、法律を作ることでも、新しいシステムを作ることでも構いません。安全圏から冷笑する評論家になるのではなく、泥臭くてもクリエイティブな実践者として、世の中を動かしていくことを期待しています。

<了>

vol.2は1月下旬頃の公開を予定しています。
記事一覧はこちらのページに掲載しています。

○企画・運営 東大生協駒場書籍部
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